浮気や不倫は、
恋愛に相当長(た)けた、ごく一部の女だけがするものだと思っていた。
風紀委員長のように堅物で通ってきて、
恋愛経験がほぼゼロだった私には、
夫以外の男性を好きになること自体、
ドラマや小説の中にしか起きないことだと思われた。
ところがどうだろう。
私は今まさに、出逢ったばかりの夫以外の男と、ラブホテルの一室で抱き合っている。
ついこの前まで、
出会い系サイトにいるどこの誰とも知れない男たちと2人きりで会うなど、
恐くて到底できないと考えていたのに。
それは、母に教えられてきた倫理観、道徳律にもとる言語道断な行為だし、
夫はモラハラ気質で束縛が強く、非常に疑り深くて、敏感。
その上法律家で、仕事上探偵社ともつながりがある。
当時の私には、とてもじゃないが、
"不貞"と呼ばれるようなことを実際に行動に移す勇気など、さらさらなかった。
しかし、Rはそういう意味では、
他の男性たちと違って全く警戒心を起こさせない男だった。
私には、"良い話し相手"、"茶飲み友達"という感じだった。
途中から好意を示してはくれたけれど、
それはまるで中学生の男の子のようで、微笑ましい程度のものだった。
なのに、私はまるで何かに導かれるように彼とホテルにいる。
そして、私を一生懸命抱き締める彼を、快く受け入れているのだ。
彼の前では、道徳律も倫理観も、あらゆる恐れも、いつの間にか溶けていた。
ただ心から好きだと感じたし、
ただ心から触れ合いたいと思った。
しかし、そんな心とは裏腹に、
彼に服を脱がされ始めると、
體(からだ)がこわばっていくのを感じた。
夫の乱暴な愛撫しか知らない私は、
どうかこの男(ひと)が優しくしてくれますようにと、祈るような気持ちでいたし、
夫に「お前の体質が悪い」と指摘されてきた通り、自分が相変わらず濡れなかったら嫌われてしまうのではないかと不安だった。
彼の口づけは心地好かった。
ディープキスはベトベトして苦手なはずなのに、初めて気持ち好いと思った。
私は下着だけになった。
彼の手が乳房から腰、太ももへと、優しく円を描きながら降りていく。
私の體(からだ)は徐々に力が抜け、彼の腕の中に沈んでいった。
こんなに人肌って温かかったのか……。
こんなに人の手って優しかったのか……。
私は何も考えられなくなっていた。
ただ心地好さの中を漂い始めた。
しかし、次の瞬間、私はギクリと體をこわばらせた。
私の内ももを撫でていた彼の指が、
パンティの端をめくり、秘部に触れたのだ。
「ごめん。痛かった?」
とRが手を止めた。
痛くはなかった。なのに、體が反射的に拒否反応を示してしまったようだ。
「ごめんなさい。私、実はセックスが苦手で……。もう10年、旦那とはセックスしてないの」
やはり私は、夫が言う通り、
セックスできない女なのではないか。
浮気相手のいい歳の女がセックスできないなんて、相手の男からしたら最悪にちがいない。
私と初めての時に上手くいかず、「なんだ、処女かよ」と吐き捨てるように言った夫の歪(ゆが)んだ顔がよみがえった。
「大丈夫ですよ。気にしないで。
僕はあなたとこうして抱き合っているだけで、すごく気持ちいいんですから」
そう言うと、Rは私の手を取り、ベッドへ導いた。
「ほら、こうして一緒に寝てるだけでも気持ちいいでしょう?」
彼は私を包み込むように抱き締めると、
腕や背中を優しく撫でた。
まるで幼子をあやすように、いつまでも、いつまでも。
(つづく……)
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